日付でわかるとおり、この日はクリスマス。

▲12月25日6時の天気図
佐渡沖と関東沖に低気圧があり、北海道には気圧の谷がのびている。
いわゆる「二つ玉低気圧」の様相を呈しているが、事実、この低気圧は午後にはそれぞれ秋田沖・三陸沖へと北上、26日にはオホーツク海南部でひとつにまとまり、北海道に暴風雪を見舞う事となる。
札幌は6時の天気は雪。10時の積雪は27.6pと記録されている。ホワイトクリスマスである。
午前中は風もなくしんしんと雪が降り続いたが、13時にはみぞれに変わり、13時15分には雨に変わって、北寄りの風がどんどん強まった。
したがって午後は、嵐のクリスマスへと変わっている。
嵐のなか、札幌市内の協会ではクリスマスの催しが行われた。
当時の新聞記事から追体験してみよう。
一昨夜の札幌各教会聖誕祭
末日聖徒協会 呼物の英語劇
一昨夜の末日聖徒耶蘇教会聖誕祭は午後六時半から執行されたが 折柄の吹雪をものともせぬ 元気の子供達が 晴れの舞台姿を見せんものと 家族中を伴ひ 小さな案内者としてドシドシ押しかけるので 定刻前 既に会堂はギッシリ寿司詰めの盛況であった
先づボデリー氏の開会の挨拶 讃美歌 祈祷 オルビン氏の談話があって
いよいよ子供の舞台となり 花の組の「クリスマスストッキング」 星の組の「空の星と下界の子供」 少年組の「小建築士」など 何れも其の明瞭な語句と場慣れした動作に一同を感服させたが 当夜の呼び物たる 愛の組の「朝の喜び」は意匠を凝(こら)した其装ひが 如何にも高尚優美で 三人の星から燦然たる電光を放ったなどは 全く一同をアット言はせた
又 評判の英語劇 頗る上出来 些(いささ)かの躓きもなく 中でも黒奴(くろんぼ)の滑稽な動作が子供達をヤンヤと言はせた
(丁記者)
(1919年:大正8年12月27日付 北海タイムス)
12月25日の午後6時は、北風が強く荒れた天気。正確には雪から雨に変わってはいたが「折からの吹雪」と表現したくなるような冬の嵐の中、札幌のクリスマスは行われた。
にぎにぎしい様子だが、クリスマスのプレゼントに関しては記述はない。
末日聖徒耶蘇教というのは、現在の末日聖徒イエスキリスト教会であるとすると、いわゆる”モルモン教”が大正の札幌にすでに根付いていたことを意味し、これはこれで驚きである。
なお、記事には続きがあり、聖公会(イングランド系)のクリスマスについても触れている。
「是と云ふ装飾も無かった」とあるが、賛美歌を歌い、オペラや劇の出し物もあり、催し自体は似たようなもの。
こちらは写真がある。

▲12月27日付北海タイムス紙面より
和服の子供とヒゲをつけて洋装のサンタ。この写真は大正のクリスマスの様子をよく現わしていると思われる。
なお、この日は函館の教会でもクリスマスが行われている。
プレゼントに喜び狂ふ少年少女の群れ
平和第一年の函館区における聖誕祭は二十五日午後六時より各教会に於いて挙行された
天に栄光地は愛の溢るる聖夜の各教会は 神の灯 輝き亘って いとも神々しき中に 函館聖公会は函館公会堂を会場とし 正面には黒地を背景に金銀の星を明滅させて、右手に植えた降誕樹に淡雪をあしらったのが如何にも感じが好かった
司会者の挨拶に次いで 第一部を終はり 第二部に入って 余興の数々は軈て天真爛漫な少年少女に依って運ばれた
中にも滑稽劇「最大の強者?」は四人の少年が筋肉労働者と金力万能主義者、富豪者、基督者の四つに分れての問答は 頗る意味の深いものであった
三十余番の余興後 日曜学校長の挨拶に依って 贈物(プレゼント)は喜悦に余念なき少年少女の手に堅く握らせられた
聖画を背景に ベツレヘムの星を尋ねて 三人の博士が旅行く所を現した日本基督教函館教会は 同じく午後六時から催ふされた
周囲を色彩る常磐木の緑葉にもフレッシュな感が味はひ得て 心地好かった
余興はお話やら聖句暗誦、対話、英語対話等 日曜学校教師の苦心の跡は歴然に見受られた
平和の象徴たる鐘に 柊を型どった装飾で 正面に円形を描き 其処に金、銀の糸をあしらった装飾は 淡泊り(あっさり)として 却て気持好くして呉れた
此処は日曜学校の生徒が最も多い丈に 愛らしい少年少女の歌劇や印度語もなかなか巧なものであった
軈て サンタクロースの叔父さんが現れて 皆さんへの贈物を済まして 可愛少年に依って閉会を宣せられた
次に 曙町の組合教会は質素な装飾ではあったが 天真な少年少女の喜びに満ちた微笑が思はず親たちを微笑ませずには置かなかった
斯うして 各教会が閉会したのは午後九時過ぎの事で、少年少女が喜々として家路に急いだ時は、小鳥の羽のやうな淡い六つの花がフワフワと夢のやうに降りしきって居た
(銀星子)
(1919年:大正8年12月28日付北海タイムス)
記事の「平和第一年」というのは、第一次世界大戦終結後の最初のクリスマスという意味。
函館での聖公会、日本基督教、曙町の教会と、三者のクリスマスの様子をそれぞれ描いているが、どこも楽しい催しであったことが伺える。
そしてプレゼントも配られている。この時代のプレゼントの中身は何だろう。
函館の午後6時の気温は4.0℃、午後9時は2.1℃とプラスではあるが、風速は午後7時には13.7m/sを記録しており、なかなかの荒れ模様。
なお、開会時には降っていなかった雪は、午後9時50分から11時20分にかけて観測されているが、低気圧の風に乗っているので、記事にあるような「フワフワと夢のように」という降り方ではなかっただろうが、聖夜の清い雰囲気を経験した記者の目には、そのように映ったのかもしれない・・・。