2012年07月04日

明治末年北海道記5:1912年4月12日春は●●の始まり

7月になった。
夏オヤジも一休みで、先週のような暑さは消えうせ、過ごしやすさが戻ってきた。
とはいっても、先週の暑さが建物には蓄熱されているのか?夜は寝苦しく感じることもあり、夜にも窓を開ける。やはり夜に窓を開けて寝るというのも、夏になったということを実感する。

窓を開けると、外の喧騒が聞こえる。札幌の夜は静かな夜ばかりではない。前の週末は暴走行為をなさる車たちの音が聞こえた。
北海道では冬は集団で暴走行為はなさらない。やはりスリップして危ないからだろう。だから暴走行為をなさる車たちの音が聞こえるというのも、ある意味「季節が変わったことを告げる音」のひとつでもあるのだ。

といってみたところで・・・風情もなにもないのであるが(苦笑)

さて、100年前もあるいやなものが季節が進んだことを人々に実感させていたらしい。

そのきっかけとなる記事がこちら。

1912年(明治45年)4月14日 北海タイムスより


林檎園一軒家へ黒覆面の強盗

十二日午後十時三十分頃、豊平町八十番地、北海中学へ行く道路の大きな林檎園の中にある一ツ家、山崎正一郎方へ外套の様な黒い被布を以て覆面をした丈の高い一人の強盗が、表玄関側八畳間の硝子窓を押し開けて入ったが、山崎方では丁度賊の入った五分余り前に次の八畳間へ家族一所に就寝した時だったのでまた眠らなかった。

初めは風の吹く音と思って居ると、賊は草鞋履きのままヅケヅケ仕切りの襖を開け、家族の就寝して居る座敷へ身を出し、九寸許り(ばかり)の白鞘の短刀を突きつけながら「金を出せ」と銅鑼声(ドラごえ)にいふ時

家族の者が強盗だ強盗だと叫びたてたので、賊は泥棒が戯れに刃物を持ったか又は全くの素人であったか度胸を抜かして何物も獲らず元入った窓から逃走してしまったが、人の寝ないうちから時間を間違えて戸惑いする小胆者で、或いは近頃区内の官舎等へ忍び入って家捜ししながら、一物も取らないで出て行く気味の悪い泥棒と同じでないか其筋では厳重に賊の行方捜索中



この記事が新聞に載るや、札幌の人は「強盗の季節が来た」と感じたらしい。
昔の家なら、冬は窓なぞ凍って開かないし、雪の上なら足跡も残るし、などいろいろ理由はあるだろうが、強盗が季節ものと感じていることが興味深い。

しかし、この記事も「強盗なら騒がれても一つぐらい物を取っていくもの」みたいな意味にも取れてなかなか面白い。

1912年(明治45年)4月18日 北海タイムス


はだかで白羽の前 強盗を走らす

既記の如く、去る十二日の夜、区内豊平町八十八番地・林檎園一軒家山崎正一郎方へ一人の強盗押入り、短刀を閃めかせて家人を脅迫せしも、却って家人のため強盗と叫ばれ、一物も獲ずして逃走したること既報の如し。

右に就き、区内の人々は「今年もまた強盗の時季が来た」と其処此処に噂するに至りしが、昨年の人騒がせは三上殺しの境吉蔵と留置場破りの駒澤忠三郎に札が落ち、両人とも取り押さえられて目下獄裡にあれば大した心配はないにしても、南一条東四丁目・荒物商今泉堤蔵方へ忍び込んだ賊が今猶ほ逮捕に至らず、その筋は爾来(じらい)該犯人に就き捜査中

雪解けを待ってましたといふ格で前記豊平町にて強盗直ちに引っつかみ呉れんと某々方面に手配せしが、其の実情を聞いて見ると、
右強盗は泥草鞋のまま六畳敷を通り、次の六畳には正一郎夫妻と子供の寝てる其の襖(ふすま)を開けるや、長さ九寸ばかりの短刀を突きつけ「騒ぐな騒ぐな、騒がずと金を出せ」といひ別段手出するでなければ、
正一郎、裸のままに寝床を這い出し、「金はない、俺は月給取りだから月半ばに金のある道理がない、若しあるなら此の家なんかも半普請(はんふしん)で投げとくやうなことはせぬ」と答えるに

正一郎の妻女は夫がはだか姿で賊の刃物の前に居るのを危険に思ひ
「貴方、はだかじゃ不可ません。着物をお召しなさいナ」と注意し、且つ賊に向かって
「今云う通り、宅には金は何にもありませんから衣服でもお持ちなさいませ」と勧める中にも、強盗が万一短刀を振り回したら何うせうとの心配なれど、正一郎少しも頓着せず、悠々衣服を着し、帯を締めながら妻女を顧みて
「宅へ賊が入ったと隣家へ知らせて来い」といふに強盗は其の行手を遮り
「表外へ出てはならぬ」と肩怒らせて短刀をまわす。

かくて正一郎は賊を連れて次の間に至り、押入れを指さし、此の中に箪笥があってそれに衣服をいれてあるといひ、賊が押入の襖へ手をかけんとする時、正一郎は最前賊の入りたる硝子窓に首を出し
「強盗強盗」
と大声を連呼せしかば、此の声に驚きたる強盗先生、大いに泡を食い、正一郎の体と擦れ擦れにて周章狼狽、其の窓から外へ飛び出し、右か左か逃走して遂に姿を闇に消せり。

其の服装は語ることを暫く遠慮すべきが、此の動作を以て強盗の何者たるを推測するに難からざるべし。

想うにこの強盗は、強窃盗を以て常習とするものにあらずして、唯一時の気まぐれかそれとも此の界隈を往来する馬車追の類ならんかといふ



話を聞いた市民も「強盗の季節がきたか」と話せば、捕まえるほうも雪が消えて「待ってました」とは、春は泥棒と警察の対決のゴングが鳴るようなものなのか?
posted by 0engosaku0 at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 1912年 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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