2012年10月10日

明治末年北海道記15:1912年5月2日赤鬼現る

気温が10度を切るようになり、やっと空気が秋らしくなってきた。

札幌市内を見ていると、紅葉しないまま落ちている木の葉がけっこう多い。異常な残暑の産物か。

知床峠では、ダケカンバが紅葉しないまま全部葉が落ち、既に落葉状態だという。紅葉は気温だけではなく、日の短さとか、いろいろなものが作用して起こっているのか、それとも残暑に北海道の樹木も音をあげてさっさと眠りに入ってしまったのか。

樺太には冬将軍が来ているらしい。日曜日の夜から月曜日の朝にかけて、敷香より北では雪が降った。
樺太も残暑は同様に厳しかったはずだから、急な冬将軍の襲来に、今樺太に住んでいるロシア人もびっくりしているだろう・・・いや、そういうのには鈍感かも!?

さて、明治の末の北海道。春の話の続き。
冬将軍が去った北海道に、なにやら奇怪な生き物が?

それは「赤鬼」の出現である。

1912年(明治45年)5月2日 北海タイムスより


●赤鬼現はる

雨竜郡雨竜村第十二区居住 輸送人夫 帰来伝七長男松太郎(二七)は窃盗罪にて去月二十一日滝川分署の手に逮捕され 同分署に二日間留置取調べの結果 同月二十九日午後四時旭川着にて押送 当地区裁判所に送致され 警察署留置場に拘留し所 同夜十時頃発病せしより種々医療手当を施したるが

翌三十日午後三時頃に至り赤痢病と決定し今朝(一日朝)二時旭川町立隔離病舎へ収容せるが 刑事被告人との事とて巡査一名病室に見張りしつつあり

又警察署にては大騒ぎにて留置場を直ちに消毒し今朝更に第二回の消毒を為し、他の留置人並びに警察署員一般の健康診断並びに消毒をなし 尚庁舎の内外をも消毒したるが 本年に入り当町に於ける発患者なり
(旭川電話)



よくよく読んでみると、オカルトでもなんでもない。
赤鬼=赤痢患者のことであった。

赤痢は基本的には赤痢菌による感染症で、大腸をやられて腹痛を起こし、血便が症状として現れるのでこの名があるという。
だから、赤痢になったからといって顔が赤くなったりするわけではないので「赤鬼」と呼ぶのはまたどうかと思うが。まだ原因となる赤痢菌が発見されて10年余り、有効な治療薬も少ない中で、「鬼」のように怖い存在だったのは間違いない。

したがって、警察署はまるごと消毒!である。赤痢菌の正体もよくわからず、刑事被告人ということで病室に監視役でつく巡査も大変だったろう・・・と普通ならここで終わる話である。

しかし、この赤鬼の話はまだ続く。
赤鬼はなんと病院を「脱走」したのである

1912年(明治45年)5月4日 北海タイムス

●赤鬼留置所を逃走

窃盗罪にて旭川警察署に押送され 其の後赤痢病に罹り 旭川隔離病舎に五月一日収容されし窃盗被告人 帰来松太郎(二二)は今暁付添巡査の隙を窺い 病室排泄物収集窓より逃走 行方不明となり 旭川署に於いては一日午前二時より非常招集を行い 白石署長外殆ど全部にて各方面を捜査しつつあれど 未だ何等の情報に接せずに

或る噂に依れば一日午前十一時より十二時頃迄の間に於いて神楽村附近に於いて病人体の怪しき男 薬瓶を携え立ち止まりて呑みつつ行ける者を見たりといふ人あり



赤痢など恐ろしい伝染病の病人のそばには近寄りたくない・・・そんな巡査の恐怖心を利用したか、「赤鬼」窃盗犯はまんまと逃走を遂げた。

攻める赤鬼は自由だが、伝染病患者でしかも犯罪人に逃げられた警察署としてはマチを守るのが非常に大変な状態である。署員総出で行方を捜しに出る事態となったのも、その危機感のあらわれであろう。

さて、逃げた赤鬼。どこへ行ったのか。

1912年(明治45年)5月6日 北海タイムス

●赤鬼捕まる

旭川隔離病舎より逃走 行方を晦ました(くらました)窃盗被告人たる赤痢病者・帰来松太郎(二三)は旭川署の高橋・飯田二刑事の追跡を巧みに免れ居る内 去る三日夜捜索応援中の人民の為に雨龍村にて押へられ 雨竜駐在所に一時収容の由四日朝九時十分深川分署より旭川警察署に電報ありたり

一説に依れば被告は盗んだ馬に乗って行く所を捕はれしなりとは何処までも馬泥棒なり



自分の町に戻り、そしてまた捕まったのであった。
めでたしめでたしという結末である。

それにしても記事では松太郎の年齢が全て違う。本当は何歳だったのだろう。
そこだけが、少しオカルトである。


posted by 0engosaku0 at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 1912年 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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