記録的残暑の影響で、海水温が異常に高いまま10月に突入した。上旬は台風が太平洋沿岸に続けて近づいたことで、海が荒れた太平洋側では海水温はだんだんと平年の値に近づきつつあるが、台風から離れて荒れていない日本海は、まだ平年より3度前後は高いままである。
既に大陸では寒気が蓄積され始め、時々北海道の上にもやってくる。日本海の海水温と上空の温度差が対流を生み出し「秋時雨」という天気をもたらすのだが、今年は海水温が高いぶん、上空に入る寒気がそれほど強くなくても大気の状態が非常に不安定になりやすい=竜巻登場!というわけだ。
この予告はすでにさりげない形でしてあったのだが、昨日の留萌に今日の奥尻・江差と竜巻の度重なる出現。やはりこうなったかと。
この状況についてはまだまだ油断できない。海水温の低下を待たずに、これからは大陸よりさらに強い寒気がどんどん入る。本当に気をつけなければならないと思う。
さて、同じ大騒ぎでも、楽しく騒ぐのがよい。
明治末の北海道。話はまだ5月初頭である。
雪が融けて、春が来た北海道。駆け出したくなる気持ちそのままに、5月は運動会の季節である。
なぜ5月に運動会を行うのか?というのには諸説あるが、ルーツとなる札幌農学校の遊戯会の開催が毎年5月だったから、運動会のシーズンも自然と5月が中心になったというのが有力な説である。
1912年。この時代には既に5月の運動会はすっかり北海道の文化になっていたようだ。
では源流となる北大の運動会の様子から。
1912年(明治45年)5月7日 北海タイムスより
農大遊戯会
北海の花 否 日本陸上大運動会の魁(さきがけ)と呼ばれる農大遊戯大会は 一昨日稀有の大暴風雨の為め二日を延ばし 昨六日を以て開催したり
朝の七時と九時に打ち揚げたる各三発の号砲は青天に轟きて 八万(札幌)区民の春眠を覚破したるの観ありき
△骨鳴り肉踊り 血湧き魂飛ぶ 青年学生の気意 将に天に沖し 雌雄を争ひ勝敗を決し 或いは勇敢敵陣を磨して斃ほるるもの 間髪を容れざるの間に寄行を奏するもの 或いは虚々実々 或いは正々堂々一勝一敗一優一劣 壮観を極め 精錬を尽くす数万の観客 四辺を囲み狂するが如く魅するが如く 弥次(ヤジ)隊の声 又天地に轟きて 風なきにエルム樹の枝梢 慄然たる声を聞く 実に近来の快事なりし
特に△源平野仕合を加へて 日本特有尚武の気象を発揮せしめたるは吾人の最も悦所にして 将来共大いに此種の番組を奨励したきものなり
近年各学校の運動会を観に 徒(いたずら)に技巧に流れ 戦略に失憂も勇壮活発の風なく又一般に基本的体育に重きを為さす
果ては舞踏式演技に陥り 徒に父老をして文弱の嘆を発しむるに至る
宜しく各学校共 建武国々民の精神を発揚せしむべきなり
且つ技を争い 術を闘はずに当たり 正々堂々古武士の如く 聊か(いささか)其の間未練を残さず 勝つも負けるも自己が修練の如何を感得せしめ 旭桜の散り際を潔ふせしむる覚悟を要せしめよ
△氷雪漸く融けて 春風北海の原野に満つ 起て奮へ 北海の青年学生諸君よ 是は正に当日運動会弥次隊の心からなる叫びなり
▼午前中の競技
第一回:走り幅跳び
第二回:二人三脚
第三回:二百メートル競争
第四回:ザック競争
第五回:走り高飛び
第六回:四百メートル競走
第七回:突競争
第八回:棒高飛び
・・・・以下略
前段は記者の願望満載のコメントとなっているが、ともかく見るほうもオリンピック並みの真剣勝負を期待しているということで、当時の「農大遊戯会」はただの運動会でないことがわかる。
札幌一中の「雪戦会」もそうだが、いざ勝負!となるとイベントの少ないこの時代、市民が大勢詰め掛けて応援するというのが一般的風景だったようだ。
なお略としたのは、元の資料の文字が薄くて見づらいというのもあるが、この部分がけっこう楽しかったようで、第九回に行われた何かの競争のあとに、番外として軍人の800m競争があったほか、第十一回の八百メートル競走が終わった後は、いよいよ源平野仕合となった。
最初に二人の学生が法螺貝をもち、太鼓を鳴らしながら現れるところから始まる
・・・先ず戦場に現はれて戦いを告げ渡る
戦士は源平各十五名づつにて両小手そうを固め 南北両側に対陣するや 平家の御大将真っ先に進み出て「近き者は寄って見よ 遠き者は音にも聞けよ 我こそは平家の〜〜」と名乗り上げ突進むのを見て 何の平家の若武者小癪(こしゃく)なと源氏の荒武者 剣を振るって之に向ひ 両軍暫時入り乱れて奮戦あり
面の真上に頂いた小板を打ち破られたるは敗戦の士として 小板の満足なりし者は両軍共に上より商品を与えられ ここに午前の競技を終わりたるが是が午前第一の観物なりし
明治の末。祖父が戊辰戦争などを経験しいる学生がいるはずだし、やはり刀を振り回していた時代が近いこともあってか、やはりこのような「戦闘モノ」というのはなかなか目玉である。
今はたたく、なぐるなどはもってのほかの時代であるから、こんなことやったらいろいろうるさいだろうな・・・
さて、この年の農大遊戯会。応援席では各学科に因んだ装飾で、こういったところも面白かったようだ。水産科は二本マストの帆船の形をした応援席を作って陣取ったということだし、鐘を鳴らすは鉄板を叩くは、相当賑やかな声援があったようである。
午後はまた一風変わった催しがあったようだ。
1912年(明治45年)5月8日 北海タイムス
午後一時半余興として予科生二十有余名の南洋土人の行列を遣った
何れも裸体に色彩し筵旗を真っ先に何れも刀槍を持ち 頭部に鳥羽を立て 腰に木の葉を纏い 中央に宝冠を頂ける酋長白馬に跨り(またがり)一行を指揮し怪しげなる喇叭(ラッパ)を吹き立て 異様異装 真に人をして唖然たらしめた
而して一行徐々に場外一周後 場中に円陣を張り賛歌を唱ひつつ舞踏一番せしは数千の観客をして一同に顎(あご)を解かしめた
実に奇想天外より落ちたるものと謂ふべしだ
春の北海道に「南洋土人の仮装」をやって、場内数千人のあごを落としたという。
どんなものをやったのか興味があるが、函館市中央図書館のデジタルライブラリにそれらしき写真を見つけた
↓
http://archives.c.fun.ac.jp/fronts/detail/postcards/4f5141dcea8e8a0b700020a4
函館市中央図書館所蔵:6枚ものの絵葉書の一枚「水産科余興南洋土人踊」
農大遊戯会は明治11年開始だから、34回目は普通に数えると明治44年なのだが、記事を見る限り「南洋土人踊り」は明治45年が初出のようだから、このライブラリの絵葉書になっている写真が、当日の模様を伝えるものなのかもしれない。
何しろ6枚モノの絵葉書セットのうち、この写真を含む2枚が「南洋土人踊り」である。よっぽど印象に残ったのであろう。
まあ当然のように、同じ事を今の世で行ったら、いわゆる人権保護団体に狙われて袋叩きである。。。
ただこういうのも世相を映していてなかなか面白い。
さて、札幌は伝統ある農大遊戯会で盛り上がっていたこの日、隣町小樽ではまた少し違った運動会が開かれていた。こちらも賑やかだったようだ。
1912年(明治45年)5月7日 北海タイムス
●手宮職工仮装運動会
鉄道員小樽手宮工場役員職工の仮装運動会は昨日(六日)午前九時より手宮公園に於て開催せり。
総員二百五十名は思ひ思ひの仮装なるが 仲に人眼を惹きたるは忠臣蔵四十七名の段多羅(だんだら)衣装 二十四孝白浪五人男 西南戦争の白鉢巻の勇士 堂々楽隊戦闘に手宮町を練廻り やがて定刻になるや煙火を合図に公園に集まり運動二十数回の競技あり
折り柄らの好日和とて見物人頗る多く 非常の盛会にて午後四時過ぎ閉会せり
仮装行列をした上で、公園でそのままの衣装で運動会である。
これは参加するほうも見るほうも、さぞ楽しかったろうと思う。
伝統ある「農大遊戯会」のほうはこの記事から10年後の1922年(大正11年)の開催を最後に廃止された。小樽の仮装運動会も今に至るまで一世紀、続くことはできなかった。この後の時代背景がそれをさせなかったのかもしれない。
ただ、5月の運動会自体は「札幌市内の小学校の運動会」という形で今にも受け継がれている。
ちなみにこの明治45年の小学校運動会の日程は5月8日の記事に書いてある。
区内小学運動会
(札幌)区内各小学校の春季運動会の日割 及場所予定せるもの左の如し
中央創成 (中島)遊園地 五月十日
西創成 大通り 五月十五日
豊水 遊園地 五月二十二日
女子 同 五月二十四日
白石 校地 五月二十五日
ただ、中身はずいぶんと普通になってしまった。明治末の小学校の運動会には「種蒔き」とか「提灯渡し」など摩訶不思議な種目もあったのである。
教育現場としても明治の頃のように、いろいろと趣向を凝らし、「札幌名物」「北海道名物」の春の運動会となってほしいと思うものである。。。
てなことを秋に言ってもダメか???
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