−生まれ故郷の札幌へは?
″ええ、お墓がありますからちょいちょい。でもこんどはゆっくりした気持ちでやってきました。道内のあちこちを歩きましたが、いけませんねぇ"
−どんなところが、
"エリモ岬、網走の原生花園なんかねぇ、本当におどろくほど立派なんです。もうあんなところ本州にはありません。自然のもつすばらしさを、十分すぎるほどもっていて…。ところが、ずいぶんよごされたり、荒らされたりしているんです"
−観光客でしょう
"北海道の人じゃないと思うんです。本州からやってくる人でしょうけどね、ああいう調子じゃ、あと数年で北海道の自然はダメですね"
<中略>
−このごろの札幌、どう思います?
"むかしはね、新しい感覚がみちみちていたんですよ。それがいまは…"
−いけませんか、いまは
"まず停車場ですね。よくもあんなもの建てたものですね。駅というのは人を迎える玄関なんですよ。むかしはよかった。屋根がとんがって、なんというか…"
−味のある建物ということですか?
"そう、そうでした。市民会館だって、外側のまずいことね。中がいいとかいってましたが、普通のホールですわ。音響効果がどうのこうのといったって、そんなこと考えるのはあたりまえですよ、ね。それに街は、いかにもせせこましくなって"
−残念でしょうね
"ええ、もう東京は、いけませんからね。都市美ということでは期待しているんですよ。札幌に"
−北海道の子供たちに何か
"だんだん都会化されていくことに甘えないでね、たくましく素朴に伸びてほしいな。祖先は開拓者だったんですから。寒さ、空腹、粗食に耐えて、しかも力強いのが道産子の特徴なんだ。"
"みずみずしさがみちていて、紳士の住む街だったんです"
石森延男さんは児童文学者で、最後の国定教科書の編纂に携わった方。1897年(明治30年)生まれなので、札幌の創成期を見ながら育った世代である。
このインタビューがちょうど50年前。さていまの札幌はどうか…。50年前に建った市民会館はちょうど取り壊しているところである。
跡地に何ができるとしても、今の大通周辺の光景にしろ、石森さんが見ると一言だけではすまないだろうな〜と思う。
「みずみずしさが満ちていて…」
こんな札幌に住んでみたかった。(あきらめるには早いか?)